平らかなる共病記_アラフォー満喫中

胸腺がんと向き合う30代後半の日々

【感想】批判覚悟で批判する『80歳の壁』②

やっぱり読んでいると”おかしい”と感じる『80歳の壁』。

第2回目は【第3章_ボケ・認知症の壁を超えていく】をみていきます。

この章では老年精神医学が専門の和田氏が「認知症とは何か」を説明するところから始まります。僕は自分のがんのことであれば、ほんのちょっと説明できる程度で、認知症のことはニュースで見ることぐらいしか知りません。専門家である和田氏が言っていることは正しいのでしょう。ですが…

Σ(゚Д゚)それはさすがにおかしいよ!という部分が出てきます。

著書の中でアルツハイマー認知症のことを取り上げています。その例として病気を公表したアメリカのレーガン元大統領とイギリスのサッチャー元首相を紹介しています。偉人と呼ばれる方でも認知症になるということで、病気に対する理解を深めるべきだなとは思うのですが、問題はそのあとに続く文章です。「在任中もおそらく軽度の記憶障害くらいはあったはずなのです」と書いています。自分で診察してもいない、そのような記録が残っているわけでもないことを、自分の憶測で書いているのです。しかも「軽度の記憶障害くらいはあった」の部分が太文字で強調されている。さらに続く文章では「つまり、認知症になっても、首相や大統領も務まる、ということです」と一文を添えています。

和田氏はこうも書いています。「専門の立場からすると、簡単に『認知症です』というわけにはいきません」と…。認知症とは言えないけど軽度の記憶障害はあったと決めつけてもいいのでしょうか?診断してもいない相手、しかもすでに亡くなっている方に…

(ꐦ°᷄д°᷅) なんつー専門家だよ!

 

読み進めていくと次に引っかかったのが認知症を遅らせる方法を指摘する場面です。和田氏は一般に認知症は早期発見が大事だと言いつつ、いまの医学では少し効くかもしれないレベルの薬しかないため医療の力では「どうすることもできない」と説明しています。

(⊙◞౪◟⊙)自分でそんなことを言うなんて、医師免許を返上したらどうですかね?

薬を出すだけ、がんなどでは手術をすることだけが医療の力なのでしょうか?患者の相談にのって悩みを取り除いてあげること。普段の生活で心がけることなどを伝えることも医療の力じゃないでしょうか?僕はがんサバイバーとして抗がん剤以外でも普段の診察の中で悩みを聞いてもらったり、ちょっとしたアドバイスをもらうことで前向きになれています。これって医療の力なんじゃないですかね?読んでいて本当に腹立たしい本です。

続けます。和田氏は物忘れが始まったくらいの段階では、むしろ医者に行かない方がいいと言っていて、大事なのは認知症と診断されることではなく、認知症の進行を遅らせることのはずです。と言って、こう続けます。

認知症の進行を遅らせる最良の方法は、頭を使ったり、体を動かしたりし続けることだと私は考えています…と。そして自分がみてきた患者を例にあげて確信している!とまで言っています。

ちょっと待ってくれよ。「私は考えています」なんでさも自分だけが導き出した結論だという表現なのでしょうか。そしてなぜ自分の経験だけで語っているのでしょうか?

日本国内の先行研究であったり、海外の研究などを紹介してもっと根拠を強めることができるはずなのに、なぜ自分の経験でしか語らないのか?読者には難しいからと舐めているのでしょうか?医療を扱っていながらまったく他者の研究や論文を引用している気配がない書籍が「80歳の壁」なのでお察しですが…

ビジネス書やいわゆるHowTo本だったら読者もそういうものとして受け取って成功している人はどんな風に経営しているのかな?など様々な角度で読むでしょう。しかし仮にも医者が医療に関して書いた本ならばしっかりと科学的な根拠を示しながら書くべきではないでしょうか?いわゆるエビデンスを示せってやつです。がんについて書かれた部分で近藤誠さんの名前が出てくる箇所はありますが…それも「え~~~」という内容。80歳の壁には僕が確認する限り和田氏の主張以外で何かの根拠を示している箇所はほぼ0です。

すでに長くなってきているので、次を最後にしましょう。

和田氏は認知症になった人は車にはねられることが少ないといい、こんな言葉を使います。「ボケてからのほうが死が怖くなるのです」。

さんざん読者に認知症を誤解するなと書いてきておきながら、認知症を「ボケ」と言い換える専門家のことが信用できますか?ありえないでしょう!このありえない専門家は事故が少ない理由も自分の経験だけで語ります。

和田氏は認知症の患者を6000人くらい診ているそうですが、車にはね殺されたどころか、事故にあって大けがをした人もいないと書いています。まるで自分が見てきたことが全てだと言わんばかりです。和田氏が診察したという患者さんの認知症がどれほど進行しているかは知りませんが、和田氏が一度見た患者さんを死ぬまで診察を続けるケースが6000人中何人あったのでしょうか?すべての情報を網羅しているというなら別ですが、例えば、引っ越しをした先で事故にあった。和田氏の診察を受けなくなった後に事故にあった。事故にあったけど和田氏に伝えていない。など和田氏が知りえない条件は複数考えられますがどうなんでしょうか。

 

さて、ここまで読んできてこの「80歳の壁」に感じることは。

確かに、和田氏が書いている内容で『医学的に的を得ている』ことはあるのだと思います。しかし、その裏付けとして書かれているのが和田氏の経験であったり、和田氏による分析であったり、言ってしまえば和田氏の持論のみ。データも示してなければ、グラフや表で示すこともありません。その①で書きましたが、健康診断と平均寿命の関係を指摘するのであれば、平均寿命の年代別推移を折れ線グラフで作ってページ内に入れればいいのにそんなこともしません。おそらくグラフにしてしまえば、戦後から現在にかけてグラフが右肩上がりに延びているため自分の考えに正当性を持たせることができないからでしょう。

 

「80歳の壁」はベストセラーとなりました。和田氏の他の書籍も含めて相乗効果でますます売れることでしょう。商売としては売れれば正義なのかもしれませんが、じわじわと和田氏の言っていることが正しいとの認識が世の中に広がっていくことが僕はとても恐ろしいことだと感じています。

www.chunichi.co.jp

中日新聞の会員ページなので全文を見ることができませんが、こんな記事がありました。新聞がこういう取り上げ方をしたらますます和田氏の主張が正しく、他が間違っていると認識されないでしょうか?現在の医療不信がますます広がり和田氏の本がますます売れるというサイクルが生まれないでしょうか?

本当に心配です。